第64話 : エッセイ
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自分の横顔なんぞ、見たくもないわい。というよりだな、この世で一番見たくないものの一つじゃないか。ついでに言っておくが、この世で一番聞きたくないものの一つは自分の声、正確に言えば録音された自分の声だ。娘が高校生の頃、電話に出た私の声を聞いた友人が後日、 「富山さんちにはお婆ちゃんがいるの?」 と言ったそうな。
ものごとを比べるのが決して良い趣味でないことくらい百も承知だが、横顔を思い浮かべるとなると、比べたくなるのが人情というものらしい。日頃テレビでいやというほど大勢の人間の横顔を見ているけれど、彫りの深い顔の欧米人にはやはりかなわない。また、少なからぬハーフやクオーターの若者タレントがもてはやされるのは、そんなアドバンテージに加えて日本語が出来るからだと思う。
その延長線上なのか、プロフィールといえば、私は外国のコインやメダルにどうしても思いが行く。それでさっき、ヨッコラショとコイン・アルバムを一冊引っ張り出してみた。あるある、女性のなかではエリザベス女王(2世)のが質量ともに群を抜いている。なにしろ発行地(国)が多いし、どれも見事な横顔である。男性のものではケネディ・コイン(1965年。1/2ドル)、同年のチャーチル記念コイン(裏は若きエリザベス2世女王)、旧いものでは1863年のナポレオン3世20フラン金貨などがすぐれている。
女優と女性アナの違いの一つは、女性アナは正面からのアップに向いているのに対し、女優はどこからカメラを向けられてもサマになると聞いたが本当だろうか。私の知り合いのある男、不男と言われても本気で怒らないだろう彼は、両耳をピクピク動かせる特技を生かしてこんど横顔写真を防止したいそうである。ここだけの話だが、私はこの特技を推理小説で利用しようと密かに考えている。
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だがしかし、横顔と言っても 「家の」 となると話はちがう。実はここまで話を引張ってきたのは、わが家の横顔について書きたかったからなのだ。東西に細長い矩形のわが家は東側に玄関があり、向かいはまあまあ展望がきくがあとの三つの方角は隣家に囲まれている。ために私は、高価な買物だったのに、「これがわが家だ!」と言える写真を一枚も持てないで来た。・・・
先月に至り、改築を決めたと隣家から聞いた時はすぐにはピンと来なかったが、やがて 「横顔」 を写真に撮れることに気付き、微震の数日間を経て出来たての更地の端まで行ってシャッターを切ってきた。しかし、横顔はあまりにも変哲がなく、到底写真をお見せ出来るようなものではないのであった。
( 2012/06/28 )
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2012/6/28 | |
2006/11/13 |
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