第71話 : エッセイ
 
2013/2/11

私は何を見たか



  あれは日付が1月20日に変わって2時間半ほどたったころのことだった。面倒くささを振り切って便所に立った私がふるえながら寝室に戻ってうしろ手に襖をしめたその瞬間、前方(東)と右手(南)のガラス窓がぎらりと白く明るく光り、ギョッとした。数秒間続いたろうか。稲妻とは明らかに違った。窓は両方とも二重窓で、すりガラスが入っているため、光源はもとより光芒も見えなかった。そして、それが音響を伴っていたかどうかさえ、記憶がない。ただ、ピカドンという言葉が瞬時頭をよぎった。ほどなく暗闇が戻りあたりは静まりかえっているので、私は窓を開ける気にもならず、しかしいつもの癖で時計にだけは眼をやった。2時40分前後だった。変なこともあるものだとは思ったが、それ以上深く考えることもなく私は再び眠りに落ちた。
 
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  以下は1月21日付朝日新聞朝刊の記事である。
 
君は見たか
 
 関東地方の広い範囲で20日未明、大きな音とともに明るい流れ星(火球)を見たという目撃情報や画像、動画がネットに投稿されている。隕石(いんせき)である可能性がある。埼玉県ときがわ町では午前2時40分すぎ、会社員後藤史明さん(28)が天体撮影をしていて、たまたまとらえた。車載カメラで撮影されたらしい投稿動画は、13万回以上再生された。     (杉本崇)
 
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  この記事には 6x7センチほどのモノクロ写真が1枚ついていて、ときがわ町の堂平天文台付近で撮影されたという、お手柄の写真である。夜空の一角を一本の光芒が鋭角的に切り裂いて墜ち、地平に近付くほど太くなり、最後に火球となっている。手前には何本もの大木の梢が黒々としている。まさに十数秒のショーというべく、わが家のガラス窓が一面に白く輝いたのも納得される。さらにどこかのテレビ番組では、火球(隕石)が茨城県北部の海へ墜ちて行ったとも話していた。
 
  君は見たか、と問われるとちょっと返事につまるのだが、一体全体あの時刻にあの光を浴びた人は、あるいは感じた人は、関東地方を中心としてどれくらいいたのだろう。いま、あの一瞬を体験した不思議な感覚を思い返すと、気の弱い私なんぞは、極地で夜空に大きく広がってうごめき続けるオーロラを一人で見たら、おそらく一度は卒倒することだろう。大自然の驚異という表現を思い出し、ついでに天体ショーともつぶやいた最近のできごとだった。
 
( 2013/02/11 )
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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