第59話 : エッセイ
2012/1/21

棒 鱈

   年の初めであることもちょっと意識して、神品とまで言われる中国絵画の傑作「清明上河図」その他を上野で<拝観>して来た。押すな押すなの観客の列と、約800人を細密に描いた北宋時代の絵巻を前にすると、お賽銭こそ投げないけれど、まさに<拝観>する気分になるのであった。そのあとワイフと私は、かなりの空腹を覚えつつ、近くのパブ風レストランで予定通りフィッシュ・アンド・チップスを注文し、聞きなれない名のビールを喉に流し込んだ。
   そもそもフィッシュ・アンド・チップスはフレンチ・フライド・ポテトを添えた白身魚のフライで、英国発祥の大衆軽食。タラ、シタビラメまたはアカガレイなどの魚のフライに塩と酢をかけて指でつまんで食べる。紙に包んで持ち帰るが、路上や車内で食べる人も多く、最近は米国でも売っている・・・と説明している少々旧い辞典もある。私は数年まえ、わずか2ヶ月の間に欧米3カ国で続けざまにこの料理を食した体験を第8話で紹介した(2005/02/15)。しかし、である。その時、同じタラということなのに、連想し得なかっただいじな食べ物があった。
 




   それが表題の棒鱈(ぼうだら)である。日本にいる限り、棒鱈抜きで私の正月は来ない。棒鱈とは干鱈の一種にして、マダラを三枚におろし、頭と背とを取り除き、日光で干した食品である。ちと臭いのが難点だが、形はバゲット・ジャポネーズのひとつ、とでも呼ばせてもらえればなによりなのだが・・・。関東以北の方々にとっての「鮭とば」が、関西以西の人々にとっての「棒鱈」なのかなあ。ともあれ、湯島天神近くの店では切身の煮付けを小さめの袋に入れて売っているようだし、だいぶ以前新宿で干鱈を見つけた記憶がある。
   我家では毎年12月中旬すぎ、三重のワイフの実家が棒鱈1本を届けてくれる。ノコギリを使わないと割木のような一件をばらせないことが多いが、ワイフは手馴れたものである。大き目の鍋で水替えしながら1週間ほど水に浸し、その後更に小さい切身にして数時間甘辛く煮付ける。身がほぐれやすく、鱈独特の繊維質の歯ごたえと干物特有の味がたまらない。日本酒のパートナーとしても旨っ。しかしただひとつ、気をつけないといけないのは、調子にのって大量に食べると、正月太りが加速するだけでなく、我輩の場合、便秘になりやすいのだ。鱈腹は禁物なのだ!
 
( 2012/01/21 ) 
  

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