第58話 : エッセイ
2011/12/19

老成(付録とも)

年をとると思い出に生きる部分が大きくなるのは至極自然なことである。記憶を反芻しているうちに、真っ暗なトンネルのさきに白く光る出口が突然見えてくるのに似て、思ってもみなかった新しい解釈に出会うことがある。それは発見と言ってもよい。老人の知恵袋はこうして大きくなり、そればかりか中味が発酵したり熟成したりすることもあって、ますます値打ち品となるのだ。願わくは、老成という言葉は今後良い意味でのみ使われます様に。
 
某日の早朝連れ合いが言うには、私が寝言まじりにしきりと笑っていたそうである。私は心当たりは全然ないが、それを聞いて、なんだか胸の中が暖かく気持良くなってきた。正体は不明ながら、何かしら面白いこと楽しいことがあったに違いない。
 
私は外出好きで新宿あたりへはよく行く。近頃は電車に乗っても、ラッシュ・アワー以外は優先席に座れることが多く、この時だけは良い世の中になったものだと嬉しくなる。そして赤ちゃんを近くでのぞき込めることも多い。どういうわけだか、私は赤ちゃんの目にとまりやすく、濁りのない眼にとらえられると、つい顔がほころぶのである。手を振ることもあれば若いお母さんに 「いくつ?」 と尋ねることもある。なかなか笑い声までは出ないが、そのうち、夢とつながることがあるかもしれない。
 ( 以上 2011/12/19 )
 


付録 ・・・・・ タイチは二歳半
 
受話器を置いたワイフの笑いがj止まらない。話をきくと ・・・
 
孫娘の満里奈ちゃんとずいぶん話をしたあと、その弟の太一君ともしゃべりたくなり、「ちょっとタイチャンに代わって」と、呼んでもらった。
「もしもし」とタイチャンの声。
「もしもしバーバよ、タイチャン元気?ハムスター飼ってるんだって?」とワイフ。
するとちょっと間をおいて
「うるしゃいなー」と電話の向うからタイチャンの声。
「エッ!」と妻は一瞬ひるんだが、気を取り直して
「でもタイチャン、ハムスター、ハム助って言うんでしょ。可愛いでしょ」と言うと、なんと、またもや
「いいかげんにしてヨ」と、のたもうた。
妻に悪いと思ったのか、横から「タイチャン早くお姉ちゃんに代わると言いなさい」と半分笑いながら言う満里奈お姉ちゃんの声が聞こえる。
ようやく「バイバイ、またあしょぼうね」といつものように太一君が言って満里奈ちゃんと代わった。
妻が「太一君すごいね、うるさいなんて可愛くないね」と言うと、「タイチャンみんなにこんなこと言うからいつもママにおこられてるよ」と満里奈お姉ちゃん。
 
この話を友達に披露したら大ウケ、ご満悦のワイフ殿である。ほんと、孫にはかなわない、ヤレ、ヤレ・・・
 
後日談一筆
 
クスリが大嫌いな太一君、三歳になった今も、絶対に呑まねばならないとママの顔付きから読み取ると、ブルブルふるえながら呑んでいるそうな。一方、オムツが漸く取れたタイチャン、その日は便器の中のウンチをしげしげと、得意げに眺めていたということである。
 
・ ・ ・ こんな短文をメモしてから2年が過ぎた。めでたく五歳になった太一は「マハーリック、マハーリタ、ヤンバラヤンヤンヤン」と半分踊りながら歌ってござる。
 
( 以上 2004/01/07 )
 
 

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