第46話 : 寓話もどき
2010/11/22
ユンデとメテの関係
  
  ユンデはメテのことが妬(ねた)ましくてたまらない。同じ日に同じ場所で生まれた二人は顔つきも体つきも瓜二つ、なにからなにまでそっくりだったから、周囲の人々に少し不便をかけたかもしれない。がしかし、生まれてこの方、二人は2メートルと離れたことがないので、問題は第三者との関係にあるのではなく、専ら二人の間に存在した。ちなみに親は、えこひいきをしない、申し分のない存在だった。
  ユンデが思うに、いつからか、メテが甘やかされ出したのだ。親の目を盗んで砂糖壷に最初に侵入したのはメテだったし、箸を操ってすき焼きの牛肉をつまんだのもメテだった。いや、これは今でもそうだ。ボールを投げる・鉛筆や筆を握ってものを書く・ナイフやハサミを使う・指さす・殴る・ねじを回す・シャッターを切る・握手する ・・・ どれもこれもメテがやってのける。だからユンデはメテを一応兄ということにして、なにかにつけて立ててはいるのだが。
  一方でメテは知っている ・・・ これは、どちらかがやらなくちゃならないからこうなっただけのことだ。親が世間の子育ての流儀に従ったまでだ。ユンデにうらまれたり妬まれたりするいわれはこれっぽっちもないよ。それに、両手が必要な時は野球をする時だってタイプライターを打つ時だって二人で力を合わせてきたじゃないか。きれいな時計や指輪をはめたユンデがいくらうらやましくても、僕は一度としてぐちったことはないんだぜ。
 
  ♪     ♪     ♪     ♪
 
    ♭     ♭     ♭     ♭
 
 
  





  ユンデのふくれっ面を見るのに嫌気がさしたメテは、そこのところをユンデにうまく説明してほしいと親に頼んだ。親はユンデを呼んで、幼い時からどんなふうに二人が力を合わせてきたのかを、たくさんの例をあげて噛んで含めるように説明した。バンザイが出来るようになって親や近所の人を喜ばせたこと、パチパチと拍手したり両手を合わせて拝んだり、踊ったり縄跳びしたり、逆立ちしたり夏には蚊を叩いたり。洟をかむのだって、爪を切るんだって、ひとりじゃ出来ないんだよ。運命共同体って聞いたことがあると思うけれど、君達はまさにそうなんだよ。
  だいぶながいこと考え込んでいたが、ユンデはどうやら半分以上納得が行ったようだった。そんなある朝、二人が協力して庭で箒を使っていたら、蔓バラのトゲがユンデの親指を引っかいた。アッ、と身を引いたが時すでに遅し、引っかくよりも切り裂いた感じの傷口は1センチほどもあって、指って!と驚くほど血がしたたり落ちた。洗面所のタイルを真っ赤にして、輪ゴムも巻きつけて、一息ついた時にユンデはハッと気がついた。ここまで面倒をみてくれたのは、ぜ〜んぶ、メテじゃないか!
  まことにたわいのない話で、左利きの方からは総スカンを食うことだろうし、何というか、風呂の中での屁みたいな話だが、以前から妙に気になってひっかかっていたので、この際一筆した次第。
 
  

  ( 2010/11/22 )

戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送