第26話 : 書評
2009/2/23
提琴家月旦


  生まれ変わったら絶対にチェリストになりたい! と私は思っていたのですが、もっと簡単な手がありました。私が産んだ子をチェリストにすればいいのです。皆さん十年後をお楽しみに。日本にロストロポーヴィチの再来と呼ばれる神童が登場します。
  お気楽にこんな文を書きまくっているのは、子分と称して 「12人の小娘たち」 を引き連れているヴァイオリニスト高嶋ちさ子。彼女の新刊 「高嶋ちさ子の名曲案内 ・・・ 心が10倍豊かになるクラシック」 (PHP新書)は、経験を織り交ぜつつユーモアたっぷりに名曲50作品を紹介している。初心者のためのクラシック入門書第二弾だそうである。呻吟して書く、なんておよそ知らぬげに軽々と筆が進むので、読者の方も気軽に読めるのだ。


  
  彼女の根っから明るく勝気な性格は、家族の DNA のようだ。とりわけピアニストのお母さんは 「笑ってもいいよ合奏団」 をリードするくらいの楽天家で、神経が太い。天衣無縫である。また、ドナドナを歌うたびに涙ぐむお姉さんもいる。そんな家族にかこまれて、彼女は小四まで自分のことを 「おれさま」 と呼んで育った由。喉を痛めてあのハスキーヴォイスになったようだが、人の声に近い音が出るチェロを愛してやまないのはそのせいでもあろうか。
  一年余り前、近くの市民文化会館で彼女のコンサートがあった。そのたくみなトークがヴァイオリンの音色に劣らず楽しみで、私達は夫婦でいそいそと出かけた。聴衆に眼をつぶらせ、本物のストラディヴァリウスの音色を聞き分けさせるなどの工夫がトークをさらに盛り上げ、私達はすっかり満足してほくほく顔で帰宅した。本書でもリストは 「指が六本あるんじゃないか」 と言われるほどの名ピアニストだったとか、スメタナの有名な <モルダウ> (第ニ曲) の総譜には 「まったく耳が聴こえなくなって」 と記されているとか、「私の好きなチャイコさん」 とか、音楽のソムリエさながらに気を引いて人をそらさない名人ぶりを発揮している。
 
 
  最後に、情熱的に50の名曲について語ったあとで彼女は、「この曲だけは息子に聴かせたくないな」 と思う曲は、二十世紀ドイツの作曲家オルフの <カルミナ・ブラーナ> であるとし、「オルフさん、君とは感性が合わん」 と書いている。ここまで読んだ私は 「待てよ、もしかして?」 となり、戸棚を覗いてみた。ドキン! 案の定、その CD は端っこで小さくなっていた。指揮者は別人だが、まぎれもない <カルミナ・ブラーナ>。自分で発作的に買ったのは間違いないが、えーい、なんでまたこんな曲を、と眉をひそめる結果とあいなった。
( 2009/02/23 )
 
 

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