第22話 : エッセイ
2008/10/10

思いがけず



 乞われて、というのも気恥ずかしいが、今夏日本文学館から出版された本 「戦争と平和」 に一文を寄せた。原則800字以内と定められた短文ゆえ2頁にも満たないくらい。しかしそれでも 130人近い執筆者の熱い思いは十分に伝わってくる。
 「涙出ました!」 とのメール。「平和への願いはひとつ菊日和」 と墨書された葉書。「富山さんの文で舞鶴を思い出しました」 「すうっと胸にはいりました」・・・友人からの有難い反応である。
 
 この本を読んでちょっと不思議に感じたのは、拙文で題名に使った 「不戦を誓おう」 の不戦という言葉をほかに誰一人使っていないことであった。どうも反戦ほどポピュラーではないようだ。しかし待てよ、と私は自問自答する。反戦には、まず戦争ありき、のにおいがする。不戦とは、最初から戦う者がいないのだ。どの国も、戦おうとしないのだ。
 
 一人でそんな思いを抱いてふた月が過ぎたころ、私は社友会の仲間との軽井沢一泊スケッチ旅行に参加した。初日、今にも降り出しそうな碓氷峠見晴台にたどりついてすぐの所に、インドの詩人・思想家タゴールの銅像がこちらを向いていた。そして、その脇には右側に詩聖タゴール、中央に大きく人類不戦と彫られた中村元の書の石碑が建っているではないか。
 1913年アジアで初めてノーベル賞をもらい、その詩はインドの国歌にもなっているラビンドラナート・タゴール (1861-1941)。帰宅後私は本棚から 「タゴール詩集」 (山室静訳・昭和34年再版角川文庫)を引っ張り出し、日本とも関係の深かったこの偉大なる詩人とのかかわりにおいて、思いがけず 「不戦」 に出会うことが出来たのだった。ラッキーだった。ただ、あの場所でゆっくりと由来の説明板を読まなかった自分の粗忽さが悔やまれてならない。
( 2008.10.10 ) 

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