第21話 : エッセイ
2008/8/18

同 棲 時 代

 
 


 軒下の睡蓮鉢はさしわたし 45 センチあって、そこがわが家のメダカ達のホームである。その半分弱にかぶさる様に一枚の板が置かれているのは、直射日光や野鳥を防げる上に雨が吹き入るのも避けられるとあるじが睨んでいるからだ。が、今まで、快哉を叫ぶほどの首尾は得られていない。とは言え、冬に水面が薄く凍っても夏に水が濁ったぬるま湯みたいになっても、大量死したことがないのを見ると、これが間違いというわけでもなさそうだ。さて、鉢の中だが、底には小さめの玉石などが敷かれ、ヒトデかテトラポッドのような形をした陶製の小物一個やら木炭二切れやらが置かれ、水草が数本ゆらゆらしている。水草は茂りすぎるのもよくないし、さっさと枯れるのもよくないので、案外に面倒だとあるじは常々感じている。エサは根気よく毎朝与えている。水替えは、そう、月に一回すれば良い方か。

 メダカの成魚10匹はこうしてこの2年ばかりを生きてきた。今いるやつがずっと初めからいるわけでは勿論なく、平均寿命はやはり3年といったところか。10匹のうち緋メダカは今や一匹しかいない。ところで、今年やけに目に付くのが水の濁りで、ドロリとした緑色になり、日増しに濃くなる。そして、くさい。そのためにメダカがあっぷあっぷしていっそ死んでくれればあきらめもつくのだが、ぐったりする様子もなく、7月にはやたらと子を産んだ。蚊と日焼けに弱いあるじは、そうそう水替えばかりも出来ず、途方に暮れた。

 そんな時にあるじがふと思い出したのは、ドジョウを同棲させればメダカを捕食することもなく、一方で水底に湧くイトミミズなんかを食べて水をきれいにしてくれる、という話やら記事やらである。よーし、今年こそ今こそこれを試さねば、と思ったあるじは熱帯魚店へ自転車を走らせた。・・・すると、驚いたことに、昔から見慣れたドジョウは、今ではあわれエサに供されることが多いんだね。数十匹が袋に入れられての安売りだ。店員によればこいつはヌルヌルしたものを出すからメダカとの同棲には向いていないとか。仕方なく、3匹一千円也というシマドゼウを買う。(ドゼウと店員が書きたい気持は分かるが、やはり今ならドジョウと書くべきでしょう)。かなり色白で、太目の黒いシマが輪切り状に入っている。(註:左の写真は陶製で、色も全く違う)

 こうしてついにわが家のメダカ達に、ドジョウとの同棲時代がやって来た。あるじは、ドジョウの入ったビニール袋を逆さにして、ジャーッと中味をぶちまけた。その瞬間、ドジョウ達は鉢のへりを素早く一周ほどし、木炭と小石のすき間に身をひそめた。水替えをしたばかりなので中はよく見える。よく見ると、頭だけを覗かせている。一方のメダカ達、よほどショックが大きかったらしく数秒間は右往左往のパニック状態だったが、やがて5匹ほどが水の中層あたりで左向きに並んで静まった。立体的編隊飛行スタイルとでも言おうか。食いつ食われつの戦いにならないことを確認すると、あるじは急に興味を失い、さっさと家の中に入った。

 同棲時代はこんな具合に始まり、10日後には小さな針のような新生児メダカが20匹近くも見付かった。別の容器に移したものの、生き延びるのはいつものように3匹くらいかなとあるじは踏んでいる。茂った水草が邪魔をして今では彼等がどんな具合に同棲しているのかはよく見えない。当分はこのままにしておこう。・・・パパに連れられた子供が熱帯魚店で、「あれぇ、こんなちっちゃいサカナが泳いでる!」 と感に堪えたように叫んでいたのを思い出しつつ、自分も、小さな命と向き合ったふたたびの夏だとあるじは思った。
( 2008/08/13 )
 
 

戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送