第14話 : エッセイ

  料 理 デ ー

 
 
 老境のあり方については、たまに乏しい知恵を絞ることがありまして、ある時私はこう考えたのです ─ ひとりきりになったらどうしよう。物欲とか色欲とかはなくてもなんとか生きられそうだけれど、食べ物と食欲がなくなったら人は生きていけない。そうだ、簡単な料理くらい、自分で作れなくちゃ。ときどき有名人なんかが 「タマゴかけご飯は最高!」 なんてのたもうているが、ふだんおいしいものばっかり食べてるからあんなこと言えるのである。もすこし次元の高いものをこしらえて自らに供さなくては。
 
 

 うん、ひと通り料理法さえ身につければ、年相応の経験で舌は肥えているから、きっとおいしい味が出せるに違いない。それに、外国暮らしであちこちの料理を味わったことだし。オニオンスープ、タルタルステーキ、ザウワークラウト、クスクス、スパニッシュオムレツなどなど、きりがないくらい。こうも考えました ─ 山田風太郎が 72歳で 「あと千回の晩飯」 を書いたように、自分もぼつぼつ ≪残りの時間、残りの食事≫ に思いを致さねばならん。そのためには、ワイフの腕前に頼りきりにならず、時には自分の味を出さねば。そして、そうしているうちには、偶然にせよ、懐かしい ≪おふくろの味≫を再現出来るかも。
 
 
 まあ、こんな理屈を自分でひねくり回したあげく、毎月一回、夕食を用意することをワイフに約束しました。≪決行日≫ は、ワイフが絵手紙教室から帰宅するのが遅くなる日とすることが多く、当日私は近くの町のスポーツクラブで泳いだ帰りに食材を仕入れてくるという寸法です。かくて爾来、わが ≪料理デー≫ はなんとか続き、過ぐる8月をもって21回を数えました。まことにメデタシメデタシなんだけれど、会心の作は数えるほどもなく、毎回苦労と失敗の連続。自分で作るというのは、東海林さだおの食通エッセイを読んでガハハと笑っていればすむのとは大違いなのだ!
 
 
 虎の巻 (レシピ) は NHK の 「ラジオ深夜便料理帖パート1 及び 2」 その他。ところが、ご明察の通り、えびワンタンはえびがどんどんワンタンから飛び出してしまうわ、別の日のロールキャベツからは黒煙が立ち上がるわ、いつぞやの和風ハンバーグはワイフが顔をしかめる塩からさ。それでも、ヘタにフォークを突き刺してガス火であぶり小ぶりのトマトの皮をむくのなんざ、しゃれてると思ったし、長芋の皮むきがあんなにスリリングだとは知らなかった次第です。(ザクザク切った長芋は、ポリ袋に入れ、すりこ木で叩いてつぶし、まぐろの山かけにする)。前回のトマトのアボカド詰めは、アボカドの身をフォークでつぶしたものプラスなにやかやを、くりぬいたトマトに詰めるのですが、ちょいとシェフになった様な気分でしたぞ。
 
 今後の課題は揚げ物と焼き魚と思ってます。それから、冷蔵庫で冷やしておくべき料理を一連の作業の最後に作ったりする愚をくり返さないこと等々、反省点は山ほどあります。しかし、こう言っちゃナンですが、ワイフが旨い旨いと言って ≪完食≫ してくれた時なんか、うれしい限りです。すでに実践している諸兄はここでうなずいていますよね。さあ、心ある男性諸君、食材豊富なこんにち、チューボーは君を待っている、もはやチャレンジあるのみですぞ!
 
(2006.9.13)
 
 

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